この度はウェブ企画展「勧工寮葵町製糸場図面3D復元プロジェクト」をご覧くださり誠にありがとうございます。
「この図面を作成したエンジニアは何を伝えたかったのか?」
当館収蔵庫より見つかった図面から始まった復元プロジェクトは、図面に描かれていない作図者の意図を探る旅でもありました。
歴史、機械、建築、それぞれの領域による読み取りと対話の中で、新たな機構の発見や図面の解釈が生まれ、私たちは製糸場設営の追体験をすることで製糸場に設置された機構の意味を確認していきました。
そしてCOVID-19の影響により、今回私たちは図らずも、デジタルを利用した新たな展示に取り組むこととなりました。
仮想空間での製糸場の展示は「模型の中に入って解説する」という、通常では行えない体験を可能にしました。
博物館における新領域での試みに私たちは大変興奮しています。
本デジタル展示を通じて、明治初期のエンジニアたちの領域を超えた挑戦を感じていただけたら幸いです。そして、対面で皆様に資料を紹介する日を心待ちにしております。
最後になりましたが、本プロジェクト企画展の開催に際しましてご尽力いただきました皆様に心から御礼を申し上げます。
2021年 3月23日 東京農工大学科学博物館
勧工寮葵町製糸場3D化プロジェクト報告会 2020年3月2日
今回発見された勧工寮葵町製糸場図面から、製糸 場全体像、製糸台の復元が行われ、製糸場の全体 像が明らかになった。「勧工寮葵町製糸場3D化 プロジェクト報告会」において、今回の成果を振 り返り、本製糸場の3D復元の意義についてディ スカッションを行なった。
勧工寮葵町製糸場3D化プロジェクト報告会 2020年3月2日
勧工寮葵町製糸場3D化プロジェクト報告会 クロストーク
2017年収蔵庫から図面が見つかり、勧工寮葵町製糸場図面 であることが確認された。図面は資料点数41点、74枚で構成される。ここでは復元で用いた図面の一部を紹介する。
2017年に図面が確認され、クラウドファンディングにより多くの支援が集まり、2019年にはプロジェクトが 始動した。クラウドファンディングに気がついた日本カメラ博物館から写真提供を受けるなど、多くの方の 協力を受け、プロジェクトは支援者と交流しながら進められた。
・クラウドファンディングサイト「Readyfor」「幻の製糸場を追え! 明治初期赤坂の勘工寮葵町製糸場を3D復元へ」
・東京農工大学科学博物館HP
・勧工寮葵町製糸場図面3D化プロジェクト学生チーム ブログ
学生プロジェクトチームによる、ポスターとスライド。博物館事業「サマーフェス タ」内での発表や授業内での発表など、調査の成果を学生自身が発表した。
学生による発表用スライド
学生による発表用ポスター
学生と製糸学科卒業生との交流
(2019年8月サマーフェスタ時)
クラウドファンディング報告会での発表(2019年9月28日)
図面から復元したCADデータを活用した3D映像再現と、
3Dプリンタを利用した製糸場と製糸台の模型復元を成果品とした。
制作者:3D復元プロジェクト学生チーム
繰糸器は部品図と繰糸台(竈)図を照合し動作機構を解釈し復元した。また、繰糸台(竈)のレンガ積図を読み、積層して繰糸台(竈)の姿を復元した。繰糸器、繰糸台(竈)ともに錦絵「舶来東京築地ぜんまい大仕かけきぬ糸を取る図」に描かれるの築地小野組製糸場(明治4年8月操業)のものとほぼ同型の機構であることが確認された。水車からの動力が糸枠部に伝わり、傘型歯車により綾振り機構へ伝達する機構が浮かび上がった。一方で、今回情報不足のケンネル式糸掛部歯車の取り付け方、糸枷の外し機構など細部については省略している。
勧工寮葵町製糸場図面30(元車伝動部か)
勧工寮葵町製糸場図面 整理番号34(製糸台図)
成果品:繰糸器
勧工寮葵町製糸場図面 整理番号26(ネジ等部品図)
図面の読み取りにより、繰糸装置を繰糸器と繰糸台に分け、さらに繰糸器を❶木枠部 ❷傘型歯車部 ❸綾振り部 ❹糸枠部 ❺クラッチ部に分けた。
勧工寮葵町製糸場図面
整理番号34(繰糸台図)
勧工寮葵町製糸場図面
整理番号30(元車伝動部か)
繰糸器を❶〜❹のパーツに分け、寸法を図面から取り込み3D CADで映像化した。
❶木枠部:色分けから木製と判断。4つからの簡素な構造になっている。
❷傘歯車部:傘型歯車は合計4つ使用されている。ここでは歯車の歯数とサイズを合わせて復元を行なった。
❸綾振り部:綾振り部は左右に往復運動することで、糸の巻き取りを均一にする装置である。筒形の部品の上を棒が往復する機構になっていた。
❹糸枠部:水車の動力を円形の部品によって歯車ではなく摩擦で糸枠に伝達している。小枠再繰ではなく大枠で一度に糸を巻き取る「大枠直繰」の製糸法であることがわかる。糸枷を取り外す機構については情報が不十分であり、今回は省略している。
勧工寮葵町製糸場図面 整理番号39(竈築造図)綴19枚1通
成果品:繰糸台(竈)部 全17段
レンガ図にはレンガの規格と、一段ごとの積み方が詳細に記載されていた。当初はレンガ一つ一つの再現を試みたが、目地の誤差が出ることから、一段を面として捉え、積み上げていった。
成果品:繰糸台(竈)部 完成
煮繭鍋が収まる場所、繰糸鍋が収まる場所と内部の煙道が再現された。図面凸部の左側部分については設置向きについて検討の余地が残った。
制作者:湊健雄事務所
プロジェクトチームのデータと建物部のデータを合わせ制作。建物部、製糸台部分データを合致させて、合成した。動力部から繰糸器、繰糸台から煙道、煙突部までの配置構造を確認することができる。
[上]建屋は木造、煙突、竈兼繰糸台は煉瓦造。全長73m。勧工寮葵町製糸場外観。写真提供/日本カメラ博物館 [下]勧工寮葵町製糸場図面 整理番号5(三十分一之割製糸器械場建地割絵図)
[上]東京築地舶来ぜんまい大仕かけきぬ糸を取る図/東京農工大学科学博物館蔵 [中]勧工寮葵町製糸場内部 写真提供/日本カメラ博物館 [下]勧工寮葵町製糸場図面 整理番号19(五十分一之割製糸器械場平地割絵図)
[上]勧工寮葵町製糸場図面 整理番号19 五十分一之割器械場平地割絵図 [下]勧工寮葵町製糸場図面 整理番号28(水車十分一之図)
情報不足のため、およその復元にとどまるが、水車の動力をベルト機構を通して伝達していることがわかる。
勧工寮葵町製糸場図面 整理番号19 五十分一之割器械場平地割絵図
作業者の足元を煙道が通る構造になっている。
縮尺:[大]100分の1 [小]500分の1
素材:樹脂、MDFボード
サイズ:[大]高さ10.2×幅17.5×奥行き75 cm [小]高さ2.0×幅3.5×奥行き15 cm
制作者:湊健雄事務所
P93、94のデータをもとに3Dプリンタを用い模型復元したもの。工場内部を視覚的に確認することができる。
縮尺:10分の1 素材:樹脂
サイズ:高さ23×幅17×奥行き25 cm
制作:湊武雄事務所
制作支援:一般社団法人 ぐんま食と歴史文化財団
学生が制作したデータをもとに、3Dプリンタを用い、模型復元したもの。繰糸機構を視覚的に確認することができる。
バーチャルSNS cluster(クラスター)を使って、仮想空間内で勧工寮葵町製糸場内を歩ける初の試み。空間内には図面を配置し、図面と復元箇所の対比が可能となっている。
※推奨OS以外のOSはサポートの対象外となります。起動が可能な場合でも正常な動作が保証されておりませんのであらかじめご了承ください。推奨OSはこちら 。
・Macでインストールができない場合
期間: | [第一期]2019年4月~9月 [第二期]2019年10月~2020年3月 |
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目的: | 明治初期の洋式機械製糸技術の伝播様式を明らかにするため、勧工寮葵町製糸場の構造を可視化したい。 |
目標: | 図面から抽出した情報をもとに、動力部、建築部をデジタル3D画像で再構成することで、製糸場内での配置構造を確認する。 |
[第一期]図面調査・建物部・製糸台の3D データ化
2019年4月: | 学生募集 キックオフミーティング |
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5月: | 資料調査 デジタル化部分の検討 |
6月: | 資料調査 |
7月: | デジタル化作業 |
8月: | デジタル化作業 |
9月: | プロジェクト報告会 |
[第二期]模型・動画作成
2019年10月: | 模型化スタート |
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2019年11月~2020年2月: | データ整理・3D プリンタ出力 |
2020年3月: | 模型、3D 動画完成 |
※ 第二期における製糸台の模型は、一般財団法人ぐんま食と歴史文化財団の助成をうけて作成した。
東京農工大学科学博物館館長: | 高木康博(令和元年度)、金子敬一(令和2年度) |
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プロジェクト担当: | 齊藤有里加(東京農工大学科学博物館) |
学生プロジェクトメンバー (1期:図面読み取り分類・解釈作業) |
丸山遥香、石田華子、加藤芳信、野村竜聖、三宅新人 |
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3DCAD演習自由課題協力 (1期:繰糸器・繰糸台図面3Dデータ化): |
龍見香穂、東林泰佑、根岸孝太、森脇翔平 |
担当教員: | 岩見健太郎 |
学術協力: | 鈴木 淳(東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授) 齋賀英二郎(公益財団法人 文化財建造物保存技術協会) |
写真資料協力: | 日本カメラ博物館 |
映像・模型制作: | 下田泰也(Echelle-1)、湊 健雄(湊健雄事務所)、菊地佑磨、大歳泰史 |
模型(繰糸台)制作支援: | 一般財団法人 ぐんま食と歴史文化財団 |
養蚕技術助言: | 横山 岳(東京農工大学農学部蚕学研究室、東京農工大学科学博物館副館長) |
パネリスト: | 鈴木 淳(東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授) 高林千幸(岡谷市蚕糸博物館館長) 手島 仁(前橋市前橋学センター長) 速水美智子(速水堅曹研究会代表) |
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諏訪式繰糸器実演: | 小此木エツ子(多摩シルクライフ21研究会・元東京農工大学製糸学科教員) 林 久美子(岡谷蚕糸博物館学芸員) |
協力: | (株)宮坂製糸所 |
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その他図面調査協力 | 差波(鈴木)亜紀(法政大学兼任講師) |
図面撮影: | 合同会社AMANE |
参考: 鈴木淳「勧工寮葵町製糸場の設備と意義」政治経済学・歴史経済史学会秋期学術大会.2017.10
鈴木淳「工部省勧工寮製糸場(葵町製糸場)図面の重要性について」東京農工大学科学博物館企画展記念シンポジウム「勧
工寮葵町製糸場図面発見!近代製糸技術の継承と未来」講演資料 東京農工大学科学博物館.2020.2
東京農工大学科学博物館葵町製糸場図面3D化プロジェクトサイト(https://www.tuat-museum.org/2020.2月26日確認)
WEBデザイン/光
書籍デザイン(WEB内で一部使用)/日向麻梨子(オフィスヒューガ)
編集/齊藤有里加(東京農工大学科学博物館)
編集・制作/下田泰也・鈴木真理子(Echelle-1)
動画(トップ部分)制作/湊健雄(湊健雄事務所)
クラスタ制作/平山 蓮、山田沙也加(Echelle-1)
動画(トップ部分)編集/瀬脇 武(Echelle-1)
本ウェブ企画展サイトを作るにあたり、多くの方のご協力を賜りました。謹んで御礼申し上げます。